07.赤髪の童顔先輩







高等部の寮の食堂は、すごく広い。
食堂だけでなく、浴場も、談話室も、とにかく全体的に広い。
中等部の時も結構大きかったけれど、高等部は寮生の人数もより多くなるから、その分色々な設備が中等部よりも広く作られているのだ。
特に食堂は、開放している三時間のうちに、一年生から三年生まで、男子から女子までが皆ごっちゃになるから、余計に。
まるで大型ショッピングセンターのフードコートのようだ。

そう、まるで、フードコートのよう。
それも、日曜日のお昼時の。






「……座るとこ、ない……」


さっきからずっと、賑わうテーブルの間を行ったり来たり。
いくら食堂が広くても、寮生はこれだけの人数。
混雑時に座れる席なんて見付からない。
せめて時間をずらしてくればよかった、と後悔しながら、引き続き冷めた鯖味噌定食を抱えてさ迷い始めた。





「あっ、ナマエー!ここ取っといたってばよー!」
「一緒に食おうぜ、うん!」


と、そんな私に天の声。
端の席から名前を呼ばれて振り返ると、ナルトとデイダラが此方に大きく手を振っている。
味噌汁を溢さないようにそっと駆け寄れば、デイダラと向かい合うナルトの隣に、確かにひとつ空席があった。
それを示す二人に促され、いそいそと私の為に設けられた椅子に腰を下ろす。


「ありがとー、助かった!もう座れないかと思った…!」
「だろーと思って、空けといたんだよ、うん」
「ナマエってば、いつもこの時間にくるもんなー」
「うん、中学の時はこの時間が空いてたから、つい…」


椅子に深く腰掛けて溜め息をつけば、ナルトとデイダラのころころとした笑顔が向けられた。
ああ、本当にありがとう二人とも。
君達が居なきゃ、私はまだ暫く食堂内をうろうろ徘徊してたと思うよ。マジで。








「へえ、こいつがナマエか」
「うん?」


知らない声に顔をあげると、目の前には赤い髪の…男子生徒?かな?
女の子みたいに睫毛長くて肌白くて綺麗な顔だけど、多分…男の子、だよね?
……ていうか、誰?
うちのクラスじゃない、けど、見た感じ一年生かなあ?
ナルトかデイダラの友達、だろうか。


「ええと、こちらは…?」
「あ、そういえばナマエは初めてか。これはサソリの旦那だ、うん!」
「先輩をこれ呼ばわりすんじゃねーよ」


あっ……先輩だったんだ。


「旦那はオイラと部屋一緒で、中学からの先輩でさ!芸術センスがすごいんだぜ、うん!」
「オレはてめーの芸術嗜好、認めてねーけどな」
「何でだよ!芸術は爆発だろ、うん!」
「はっ、てめーは二年経っても変わんねーな。永久の美こそが芸術だ」


二年経っても、って事は、あっ…………三年生だったんだ。




「ナマエ、変な顔してどうしたんだってばよ?」
「へ、変っ……私、そんな顔してた?」
「してたってばよ」


目の前で突然始まった芸術談義をスルーして、ナルトは私のほっぺをつつく。
ぺちんとその手を払って、取り敢えず苦く笑っといた。


「どうせサソリ先輩が年上でびっくりしてたんだろ?」
「えっ!」
「俺も昨日初めて会った時は、同い年かと思ったってばよ。それ言ったら叩かれたけどな!」
「……やっぱり、そう見えるんだ」
「テメーらそれは誰の話だ?」


ぎく。
割り込んできた声には怒気が含まれていて、二人でそっと正面に振り向けば、案の定サソリ先輩が私達を睨んでいた。
先輩、その顔すごい怖いです。


「べ、別に何も……ねえ、ナルト?」
「お、おう!何でもないってばよ!」
「ほお…?」
「まあまあ旦那、旦那の童顔じゃ仕方ねーよ、うん」
「フォローになってねーよ」


ごつっ、サソリ先輩の鉄拳は、隣に座るデイダラにだけ飛んでいった。
ごめんデイダラ、私達の代わりに犠牲になって。
涙目で頭を擦るデイダラに心の中で合掌して、私は鯖の味噌煮を咀嚼した。
あ、これすごくおいしい。
明日シカマルに自慢してやろっと。


「ったく、どいつもこいつも……」
「すみません先輩、つい」
「ついじゃねーよ。もっと誠意込めろよ」
「ゴメンってばよ、サソリ先輩!」
「ナルトてめーしばくぞ」
「何でだってばよ!?」
「そもそも誠意込めろってどーしろってんだよ、うん?」
「いいか、誠意ってのはだなぁ……」


ニヤリと口角をあげて私に色っぽい流し目をかますサソリ先輩の顔からは、何故か嫌な予感しかしない。






「ナマエが体で払う」
「はあ?」
「やっぱこれしかねーな。そのでかい乳で誠心誠意ご奉仕しやがれ」
「それなんて飛段?」


なんか最近そんなの聞いた気がする。
ていうか今日聞いた。
すごくタイムリーですね先輩。
もしかして見てたんですか。ストーカーなんですか。

ドン引きする私を余所にサソリ先輩がそのままセクハラ発言を継続し出したので、デイダラにどうにかしてくれと目で訴えると、彼は頬を赤らめながら焦った風に目を泳がせた。
構わずそのまま見つめ続けていれば、ちらちらと数回私を見返して、溜め息と共にサソリ先輩の言葉を遮った。
聞いてて真っ赤になるんなら、さっさと止めてよ、この人。


「そ、そういえば!旦那もだけどよー、飛段も年上に見えねえよな、うん」
「ああ……精神年齢的な意味で?」
「それな、うん」
「なんだ、飛段のやつ、まだ一年生してんのかよ」
「え、サソリ先輩、飛段さん知ってるんですか?」
「ああ。一年の時、同じクラスだったからな」


えええ……って事は、じゃああの人もう18さ…






「まあ、オレが入学する前から居たみたいだけどな」
「……」


あの人、いったい何年留年してるんだろう。









赤髪の童顔先輩


(……あ、もしかしてサソリ先輩は、飛び級かなんかですか?)
(ぶっ…!!)
(デイダラしばく)
(なんでオイラだけ!?)